京浜工業地帯の一角で鉄工所を経営している川瀬周三は、昭和41年になって、めっきり身体のおとろえを覚え、工場の実務を26歳になる一人息子の武志に譲った。そして、秋には、妻・雪枝の郷里から田切杏子を迎え、結婚式をひかえていた。順風満帆、周三にはおだやかな老後が残されているだけのように思えた。昭和41年5月、武志は、友人吉川と近くの釣り堀に出かけた帰り道、ある若者とすれ違った瞬間、腹部を刃物で刺され「お父さん、口惜しいよ、こんなことで死ぬなんて、仇は必ずとってくれよ」と言うと、周三の腕の中で息たえた。
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