某月某日、某アニメのパッケージ発売を記念したイベントが都内某所で開催されていた。主演の苑生百花、柴崎万葉、ふたりの人気声優が登壇する華やかなステージを、舞台脇から野心を秘めた瞳で見つめるひとりの共演者がいた。実力も人気もまだまだな駆け出しの声優・烏丸千歳である。野心はあっても、特別に何か努力をするわけでもなく、モブ役ばかりをこなす毎日に漠然とした危機感を感じている――そんな千歳に訪れる転機とは!?
新番アニメのヒロイン役という大仕事が決まり、収録が始まる前から調子に乗る千歳。その作品は、原作、制作会社、メーカーの折り合いが悪く、不穏な空気が漂っている……なんて裏事情は知るわけもなく、有頂天な気分のまま、メインキャストの顔合わせの場に向かうと――。そこには同期の久我山八重と、先輩声優の片倉京が待っていた。その場で聞かされた八重、京、百花、万葉たちとユニットを組んでCDデビューをする話に舞い上がる千歳だが!?
ついに千歳がヒロインを演じる作品のアフレコがスタートした。緊張する八重や京を横目に、勘違いした不遜な態度で初回のアフレコに臨む千歳。しかし、根拠のない自信はあっさりと砕け散る。思いどおりに芝居をすればオッケーが出ず、スタッフからの指示もきちんと受け止めることができない。自分が何をしたらいいのか、何を求められているのか、さっぱりわからず、困り果てた千歳は、人気声優の百花にアドバイスを求める。
千歳がヒロインを務めるアニメの第1話最速上映イベントの日がやってきた。千歳たち5人の主演声優が登壇し、トークと歌、そして本編の上映で、作品のスタートを華々しく切る日だ。場数を多く踏んでいる百花、万葉は落ち着いた様子。一方、残り3人のメンバーは、期待と不安から来る緊張でガチガチ……かと思いきや、震え上がる八重と京を尻目に、千歳は持ち前の図太さを遺憾なく発揮して、控え室で寝こけるほどにリラックスしていた。
自分たちのユニットが歌ったオープニング主題歌のCDが好調でご満悦の千歳。調子に乗り、思わず芸能人気取りの変装をして、ショップのディスプレイを確認しに行くほどだ。しかし、八重と京は、どこか浮かぬ顔。アフレコ後の完成品を観ていない千歳と違い、ふたりはオンエアされた、ひどい出来のものを観て、複雑な心境を抱えていた。そんななか、今度はキャスト陣によるお渡し会が開催されることになるのだが!?
アニメのパッケージに付属する特典映像を収録するため、沖縄へとやってきた千歳たち。同行したスタッフ陣はすっかりバカンス気分で、千歳も南国の陽気にあてられ浮かれモード。しかし、八重は初めての水着撮影に緊張して震え上がり、京は作品の芳しくないセールスを思い浮かぬ顔、百花はクールに通常運転、そして万葉は、意にそぐわぬ水着撮影に激怒していた。なんとかその場は収まって、夜には5人揃って大部屋で楽しい酒盛りが始まったのだが!?
酔いつぶれた万葉を彼女の自宅まで送った千歳と百花は、そこで山形から上京してきた万葉の母と出会う。例の水着姿の特典映像を見て、心配して訪ねて来たのだ。翌日、千歳たち作品のメインキャストが勢揃いしての配信番組の現場にも、万葉の母は姿を見せる。リハーサルを経て、なんともいえない雰囲気のままスタートする本番。番組に寄せられたリスナーの投稿が、万葉に思わぬ言葉を口走らせる。その様子を見て、万葉の母には感じるものがあった。
配信番組の収録後に起こったトラブルを万葉の父に会って直接謝罪するため、万葉とスタッフ一同は、彼女の実家がある山形県の温泉街へと向かう。その一行の中には、なぜか百花の姿もあった。万葉の実家である旅館にたどり着き、無事、万葉の父と対面する一同。つつがなく事態は収拾されるかと思いきや、ささいなきっかけで万葉と父が衝突してしまう。不器用な父娘と、それを優しく見守る母親。そんな家族の姿を見て、百花の胸には複雑な感情が去来する。
千歳たちが主演するアニメの、第2期のアフレコが始まった。商業的に成功したとはいえないプロジェクトの続編。そんな負け戦を前に、現場の士気は低下気味……かと思いきや、スタッフ、キャストには不思議な結束が生まれていた。ただひとり、千歳を除いて。すっかり売れっ子声優の仲間入りを果たした気分でいる彼女には、やる気も危機感もない。さらに、業界に入りたての新人声優・桜ヶ丘七海から屈託のない賞賛の言葉を向けられ、ますます調子づくのだった。
千歳に新しいマネージャーが付くことになった。メインの担当は変わらず、あくまでサブとして付いたという形ではあるが、事実上のマネージャー交代だ。自分がブレイクしないのはマネージャーのせい――軽口とはいえ、そう主張し続けて来た千歳だが、いざ交代してみても特に仕事に変化はなく、未だ来るのはモブの仕事ばかり。京や八重はもちろん、あとからデビューした七海ですら、順調に仕事を増やしているというのに。だが、まだ彼女は気付かないのだった。目の前にある、厳しい現実に……。
ついに自分の置かれた状況を理解してしまった千歳。唯一の取り柄だった根拠のない自信は脆くも崩れ去り、アフレコ現場でも覇気のなさを隠しきれない。そんな彼女の様子とは裏腹に、他のキャスト陣の士気は高く、七海を中心としてスタジオには朗らかな空気が流れる。それを見て、ますます沈む千歳の気持ち。励まそうとする八重の言葉も、今の彼女にはまったく届かない。千歳のその打ちひしがれた姿に、京はとある人物の過去を思い出す……。
千歳は気付いた。声優として大切な何かに。そして、最終話のアフレコ当日が訪れた。あいにくの雪で公共交通機関が大幅に遅延。大遅刻でアフレコスタジオに向かう千歳。先に集合していた他のキャストとスタッフは、これまでの思い出とさまざまな感情を抱きしめながら、彼女のことを待つ。やがて開く扉。スタジオにあらわれた千歳は、仲間たちに思いの丈をぶちまける。彼女の伝説が、ここから始まる……のか!?