同時多発テロの現場<グラウンド・ゼロ>の周辺には、今もその痕跡を色濃く残すいくつもの場所がある。 直後から負傷者の応急処置使われたカフェは今や観光名所。壁に犠牲者の写真が飾られ、昼時には再建現場の建設作業員が食事にやってくる。作業員たちは神聖な場所で建設作業に携わることの誇りを語り合い、店主のジョンはかつての常連客で救出活動中に亡くなった消防隊員について観光客に説明する。ジョンにとってはひとりひとりがヒーローだ。 トリビュートWTCビジターセンターはグラウンド・ゼロ観光の拠点。遺族や逃げ延びた人がボランティアガイドとして自らの経験や、その後の思いを語りながら見学客を案内する。 911メモリアルミュージアムでは来年のオープンに向けて準備が進んでいる。根底にあるのは、犠牲を人びとの記憶に止めること。多くの命を救った非常階段の遺構、割れた消防士のヘルメット、焼け焦げた鞄、高層階レストランで食事をした一家のレシート・・・。亡くなった人びとに思いを馳せ、来館者が共感できるような展示を目指している。その一方、なぜアメリカがテロ攻撃の標的となったかについて語られる余地はあまりない。 テロの衝撃、悲しみの大きさは計り知れない。だが、それを語り継ぐだけで事件の本当の意味を歴史に刻んだと言えるだろうか・・と、番組は静かに問う。 原題:Memoryland 制作:Point du Jour (フランス 2011年)