磐二は世志乃とバー「ヴィクターズ」で初めて会ったが、それは偶然ではなく、世志乃が磐二のことを調べて近づいてきたのだった。今時珍しいくらい誠実な磐二という男に会ってみたくなったのだという。しかし磐二は世志乃の父が保を消した可能性があるとして「平蔵が真犯人を見つけていれば保は死なずに済んだかもしれない」と責める。
世志乃はその言葉が聞き捨てならず、磐二の頬をピシャリと殴り店を出て行った。
数日後、上井戸家で行われた譲治の文学賞受賞記念パーティーで磐二は世志乃と再会。磐二は、譲治と志津香はかつて関係があったことを世志乃から聞かされ驚く。
パーティーが終わり、磐二は亜以子に何故譲二と結婚したのかを聞く。亜以子は、今は譲治を愛しているが、若い頃、一生に一度しかないほどに、ある人を愛したことがある、でもその人はもうこの世にはいない、と告白。磐二の胸元に顔を寄せる。磐二はそっと亜以子を引き離し、部屋を出た。
それからしばらくたったある日、譲治から「今すぐ来てくれ」と電話が入り、磐二が上井戸家に駆けつけると、血を流した譲治が中庭に倒れていた。譲治は磐二を呼んだ後の記憶が飛んでいたが、自分が頭を切って倒れていたことを聞かされると、強い恐怖の色を顔に浮かべ亜以子の身を案ずる。部屋で休んでいる事を知って安心した譲治は、地下に書き損じの原稿を亜以子に見られたくないので取って来てくれと磐二に頼む。
暗い地下の書斎。散乱してくしゃくしゃになった原稿用紙を広げてみると、そこには「かつて私の代わりに死んだ男がいる」と書いてあり、磐二はその一