突然、母、皐月(さつき)から「夜逃げをすることになった」と伝えられた松前緒花(まつまえ・おはな)。 母親から手渡されたのは“喜翆荘”(きっすいそう)という名と、電話番号が書かれた一枚の紙切れだけ。 住み慣れた街、母親、そしてクラスメイトの種村孝一(たねむら・こういち)に別れを告げ、 まだ出会ったことのない祖母がいる街で暮らすことになった緒花は、 海岸線を走る列車からの景色を見ながら、これから始まる新たな生活に思いをはせるのだった。
「従業員として働きながら高校に通うこと」と、祖母である四十万スイ(しじま・すい)から厳しく言われ、 スイが経営する温泉旅館“喜翆荘”で、新たな生活を歩み始めた緒花。 それは思い描いていた生活とはほど遠い世界だった。 だが彼女は、板前見習いとして住み込みで働く鶴来民子(つるぎ・みんこ)や 同じ仲居の押水菜子(おしみず・なこ)をはじめ、喜翆荘で働く従業員たちと打ち解けようと孤軍奮闘。 しかしその頑張りが裏目に出てしまう。
“喜翆荘”で長逗留をしている売れない小説家、次郎丸太郎(じろうまる・たろう)。 彼の書きかけの原稿をゴミだと勘違いして捨ててしまった緒花は、 次の朝、まかないの支度途中に姿を消してしまう。 「東京に帰ってしまったのでは?」と心配する従業員たち。 しかしスイは、そんな彼らを横目に旅館の大掃除を命じる。 掃除のため次郎丸の部屋に向かった菜子だったが、 次郎丸に、かたくなに掃除、そして部屋に入られることを拒まれてしまうのだが……。
民子、菜子と同じ学校に通うことになった緒花。 東京から来たということで女生徒たちには質問攻めに、 実は男子に人気のある民子と一緒に住んでいるということで、 男子生徒からは興奮気味に詰め寄られる。 その勢いに戸惑う緒花を救ったのは、クラスメイトであり、 有名温泉旅館“福屋”(ふくや)の一人娘である和倉結名(わくら・ゆいな)だった。 にぎやかにスタートした緒花の学校生活だが、 校舎裏で男子生徒から告白を受けている民子の姿を目撃する。
“喜翆荘”の板前であり民子を指導する先輩でもある宮岸徹(みやぎし・とおる)。 緒花と民子は、彼がホットパンツ姿の結名をバイクに乗せ走り去るのを目撃する。 驚くふたりだったが、翌日、板長の富樫蓮二(とがし・れんじ)から徹が 来ないことを告げられた民子は、さらにショックを受ける。 事情を知った菜子や次郎丸、仲居頭の輪島巴(わじま・ともえ)らも加わってあれこれ推測するも、 次郎丸が仕入れた情報により、福屋旅館による徹の引き抜きという結論に至るが……。
ある朝緒花が玄関を掃除していると、車に乗ったひとりの女性が現われる。 彼女こそ、経営が苦しい“喜翆荘”を立て直すべく、叔父であり番頭である 四十万縁(しじま・えにし)が雇った経営コンサルタント川尻崇子(かわじり・たかこ)だった。 実は、ほぼ毎月やってくるという崇子から今回提案されたのは、仲居の服装を一新する案だった。 ド派手な衣装を前にとまどう従業員たちだが、崇子の迫力と縁の勧めで、 とりあえず服装を変え仕事をすることに。
母からの電話でお見合いを勧められる巴。 すでに相手の写真も送ったと言われ、実家に帰ってこいと迫られる。 それに対して勝手に決めないでと反論するも、 高校時代の友達の中で結婚していないのは巴だけであることや、 喜翆荘でお金持ちのお客さんを捕まえて玉の輿に乗ることに失敗していることを指摘され言葉に詰まる。 今の仕事を続けるか、それとも結婚か。 これからの人生について悩む巴。 そんな彼女の前に、少し特殊な常連客一行が現われる。
旅行雑誌で喜翆荘のある湯乃鷺温泉街が特集されることを知った緒花。 旅館ランキングで上位になればお客も増え、スイからも労ってもらえるのではと妄想する。 しかし現実は1組の予約しか入っておらず、菜子や徹が休みをとるぐらい暇だった……。 ところが幸か不幸か常連さんと飛び込み客が重なり、一気に慌しくなる喜翆荘。 スイも仲居として巴や緒花を手伝おうとするが、急に倒れてしまう。 そんな中、崇子はお客に覆面記者がいると言い出すのだが……。
いきなり増えた宿泊客。突然倒れ病院に運ばれたスイ。菜子や徹の不在。 そして覆面記者宿泊の疑い……。 女将不在の中、右往左往する喜翆荘の面々は、 崇子の提案で覆面記者と思われるお客を優先に接客しようとする。 しかし緒花はこれまで通り、宿泊客全員に平等のおもてなしをするべきだと反対。 友人の結婚式に出席している徹も連れ戻すと言って飛び出す。 徹が見つからず焦る緒花の携帯に、突然孝一から着信が入る。
最近、毎朝早起きをして玄関や帳場の掃除を続けていた緒花だったが、 無理がたたり熱を出して倒れてしまう……。 落ち着いて寝ている緒花を心配そうに見つめる民子や菜子、巴たちは、 今日一日ゆっくり寝かしておこうと決める。 オリジナルのおかゆを持ってくる徹や、お見舞いがてら新作を披露する次郎丸など、 皆が入れ替わり立ち替わり緒花の様子を見に来るも、緒花は自分がいなくても仕事が回るのを見て、 本当に自分は必要なのかと自問する。
湯乃鷺温泉街の特集が載った旅行雑誌の発売日。 緒花は旅館ランキングでの喜翆荘の高評価を期待していたが、現実は10点満点中の5点。 またランキングの結果を受けてか、予約キャンセルが相次いでいた。 ランキングの結果に納得のできない緒花は、 「喜翆荘にめちゃくちゃな評価をつけた犯人と戦ってきます」と書おきを残し、電車に飛び乗っていた。 交渉(?)のすえ、なんとか出版社で記事を担当したライターの名刺を見せてもらうのだが……。
旅行雑誌の旅館ランキングで、喜翆荘に悪い点数を付けられたのは 大人の事情が絡んでいたと知ってショックを受ける緒花。 心配で迎えに来た徹と民子に慰められ、3人は小さなビジネスホテルで一夜を明かすことに。 翌朝、緒花は喜翆荘の本当の良さを知ってもらうため、 母親であり、ライターでもある皐月を誘拐して連れて帰ることを宣言。 徹と民子にも協力を仰ぐ。 それを了承する徹だったが、孝一も一緒に喜翆荘に連れていくという条件を出す。
母親を車に乗せ戻ってきた緒花たち。 皐月は着くなり、浴衣のデザインやお茶菓子、お風呂の時間について、いろいろと指摘する。 菜子はそんな彼女を素敵と思い、小さい頃から姉にいじめられてきた縁は威圧的なオーラにひるみ、 次郎丸は皐月の艶めかしく白いうなじにやられていた。 一方、スイと緒花は皐月と距離を取っていたのだが……。 仕事を通してスイ、皐月、緒花それぞれの気持ちが交錯。 四十万の女たちの物語に新たな1ページが加わる。
空に浮かぶ白い雲、照りつける太陽、目の前に広がる青い海。 今日は緒花たちが通う香林(こうりん)高校の修学旅行。 水着姿の緒花が、パーカーとショートパンツとサングラスで 完全防備姿の民子の手を引き海へ誘っていた。 仕事を離れ緒花、民子、菜子、結名たちは南国の夏を満喫していた。 宿泊先の大きさに圧倒される緒花。 旅館の番頭であり跡取り息子の日渡洋輔(ひわたり・ようすけ)は、 何か結名と関係がありそうな雰囲気だが?
結名の遠い親戚の日渡洋輔。 彼の実家が経営する旅館「福洋」に修学旅行で泊まることになった緒花たち。 しかし番頭である洋輔の厳しい指導や彼の態度に我慢できず、バイトの仲居4人が突如辞めてしまう。 洋輔の両親と残った従業員は、手空きの仲居がいないか組合に連絡を取るなど奔走する。 それを見ていた緒花は、自ら仲居の仕事を手伝うと伝えるも、 洋輔の父にお客様の手を煩わせるわけにはいかないからと断られるのだが……。
結名の実家である「福屋旅館」に集まった湯乃鷺温泉の女将、組合員たち。 不況の時世、どうやったら温泉地を盛り上げられるかと話し合っていた。 その中には緒花、菜子、民子、そして結名の姿も。 突然女将から率直な意見をと求められた緒花たちは、 自分たちの欲望のまま答え女将たちを呆れさせてしまう。 その頃、喜翆荘では縁と経営コンサルタントの崇子が、 スイに喜翆荘を舞台にした映画の製作、そしてその映画への出資の提案をしていた。
喜翆荘の螺旋階段では、緒花と菜子に追い詰められ進退窮まった結名の姿があった。 喜翆荘を舞台にして、さらに現地の人も積極的にキャスティングすることとなった映画製作。 特撮用の機材も運び込まれ、カメラテストが行なわれていた。 それを嬉しそうに眺める縁。 喜翆荘の庭にある池が映画の為に掃除され、元のプールの姿を取り戻すと、 縁はそこに過去の幻影を見る。 一方、東京に戻った皐月からスイへ一本の電話が……。
夜、次男をおぶりながら台所で夕食を作っていると、長男と次女の「お腹空いたー」という声が響き、 居間からは小学校の教師である両親の討論が聞こえてきた。 「そういう話は学校で!」と、弟妹の面倒を見ながら両親をたしなめる菜子。 そこには家の外では見られない力強くしゃべる姿があった。 翌日、菜子はお客から見ごろの花を聞かれるも、すぐに答えられず落胆する。 家でのように振舞いたい、やっぱり今の自分を変えたと思い始めていた。
文化祭で「姫カフェ」を企画することになった緒花たちのクラス。 主に男子からの強い支持で、接客チームのリーダーは結名姫、 料理チームのリーダーは民子姫ということに決まり、 緒花は仲居の経験を活かし接客チームの講師を任される。 あまり乗り気でない民子だったが、 徹の「文化祭当日の昼間は暇だ」というひと言で俄然やる気に。 限られた調理器具で、最高の料理を作ろうとメニューをいろいろと考えるのだが……。
文化祭の「姫カフェ」のメニューについてクラスメイトと言い合いになってしまった民子。 売り言葉に買い言葉、材料の買い出しや準備を自分だけでやると言い、 準備当日も朝早くからひとりで出かけていた。 心配した緒花は集合時間より早く教室に行くと、そこには黙々と準備を進める民子の姿が。 手伝いを申し出る緒花に、民子は手伝いはいらないと声を張り上げる。 一方クラスメイトの水野さんと二人きりで準備していた菜子だったが…。
縁と崇子から突然の結婚宣言を聞かされる喜翆荘の面々。 お金がなく結婚式があげられなくても、ふたりの力で旅館を盛り返すと息巻く縁だったが、 スイから喜翆荘の番頭としての体面を保つため、必ず式は挙げること、と条件を出される。 結婚費用の高さに頭を抱える縁、そしてそれを見つめる緒花たち……。 だが豆じいのひと言から、皆が手伝い喜翆荘で結婚式を挙げることに! 緒花や初めて宴会料理を仕切ることになった徹は俄然やる気を出す。
緒花、菜子、そして結名は手作りのウェディングドレスを、 蓮二から初めて宴会料理を任された徹は当日のメニュー作りに、 そして次郎丸はオリジナルの寸劇の準備にと、 それぞれが縁と崇子の結婚式準備を進めていた。 そんな中、あることから一方的に民子に嫌われてしまった緒花は、 何とか話し合おうとするのだが取り付く島も無い……。 どうすることも出来ない緒花だったが、母・皐月との電話の中で聞かされた言葉をきっかけに、 あることを決意する。
四十年欠かさずつけてきた業務日誌を誰かに引き継いでほしいという電六の申し出。 それを了承したスイは、ある重大な決心を緒花に告げる……。 後日スイの気持ちを知ることとなった喜翆荘の人々は、普段と同じよう仕事をこなしながら、 これからの自分たちの行く末を思案していた。 そんな中、崇子は縁が騙し取られたお金を取り戻すため東京に行くことを宣言。 それを聞いたスイから、緒花も一緒に東京へ連れていってほしいと頼まれる。
偶然にも東京で出会った緒花と孝一。 突然のことに驚くふたりだったが、 孝一はあらためて自分の気持ちを緒花に伝えようと、ゆっくりと話しだす。 しかし孝一の気持ちを汲み取った緒花は、それを遮り、 ぼんぼり祭に来て欲しいとお願いする……。 喜翆荘に戻ってきた緒花と崇子を待ち受けていたのは、 ひっきりなしに入る予約の電話だった。 盛り上がる縁や巴だったが、スイは決心を変えるつもりはなく、 これ以上の予約を取らないようにと言う。
湯乃鷺温泉にある神社や湖では、ぼんぼり祭の準備が着々と進められていた。 結名から渡された願い札を持って緒花が戻ると、縁をはじめ蓮二や徹、民子や菜子、巴たちが、 いつもより多くのお客さんをどうやってもてなすかとバタバタしていた。 それを見ていたスイは、半ば諦めつつも祭の日だけは、 今まで通りのやり方でもてなすようにと告げる。 スイ、電六を除く面々が一丸となって喜翆荘を盛り上げようとしている中、 緒花はどこか違和感を覚えた。
神社を目指して徐々に集まるぼんぼりの灯り。 暗闇の中で輝くその灯は、空に輝く天の川のようにも見えた。 初めて目にするその様子に感動する緒花。 そのとき携帯電話に孝一からのメールが入る。 人の流れに逆行して、慌てて駆け出すその手には、 願いが書かれたのぞみ札が握られていた……。 夜店をのぞいたり飾られたぼんぼりを眺めたりとそれぞれが祭を楽しみ、 一夜の夢が終わる。 緒花、民子、菜子、そして皆の新しい物語がここから始まる――。
祖母の経営する温泉旅館“喜翆荘”(きっすいそう)での住み込み生活にもすっかり慣れた、 東京生まれの女子高生・松前緒花は、 板前の鶴来民子や仲居見習いの押水菜子らと過ごす毎日の中で、 少しずつ変わっていく自分に気づきはじめていた。 秋も深まってきたある日、クラスメイトでライバル旅館“福屋”の一人娘である和倉結名が、 喜翆荘に女将修行にやってくる。 奔放な結名に翻弄されながらも面倒をみていた緒花は、掃除をしていた物置の中で、あるものを見つける。